販売開始から2時間ほどで約80本が完売
1月25日㈭午前10時、JR南田辺駅高架下にある千鳥屋宗家JR南田辺店で限定販売が始まりました。今回は5キログラム分の田辺大根を買い付けていただき80個弱を製造、南田辺店のほか駒川店でも商品を置いていただきました。
南田辺店には松屋さんのファンでしたという方、知人から情報を聞いて買いに来られた方など、発売開始と同時に次々とお客様が来店し午前中には完売。駒川店でも早々になくなったとの連絡が入りました。予想以上の反響でした。
手間をかけて再現していただいたのに、売れなかったらどうしようと心配しましたが、みなさんが喜ぶ顔を拝見して、取り組みを行ってよかったと思います。
千鳥屋さんが通常提供されている軽羹のお値段に合わせて800円(税込み)で特別販売いただきました。採算度外視ですね。
●販売に協力いただいた店舗
千鳥屋宗家JR南田辺店(阿倍野区長池町4-39 9:00~20:00 06-6622-7228)
千鳥屋宗家駒川店(東住吉区駒川5-17-14 8:30~20:00 06-6692-0166)
銘菓・田辺大根復活販売の朝に集った面々
このお菓子を世に生み出した松井和雄さん(元菓子処・松屋店主)、田辺大根の普及に取り組む北田辺の吉村直樹さんと谷さん、そして復活に協力された千鳥屋宗家代表の原田誉之さん、工場長の稲葉義弘さん、工場課長の池田直樹さんが初めて一堂に顔を合わされました。
関係者が集まるのは初めてで、できたてのお菓子をさっそく味わいました。松井さんからは「美味いです。山の芋もよいものを使っておられる。すべりは解消されましたね。」と喜んでいただけました。軽羹で羊羹を挟むという発想が斬新ですが、その設置面がすべらないようにするためには、素材が固まる前のタイミングが必要なのだとか。このあたりは職人さんどうしでないとわからないことです。
代表の原田さんからは「和菓子の同業者として、このような商品が無くなることは大変寂しいことで、今回お手伝いできてよかったです。」とお言葉をいただきました。
池田さんからは、「軽羹の甘みと田辺大根の風味が一番調和するあの厚みを再現するのに苦労しました。最近は多くの素材を使うお菓子が多い中、この和菓子はとてもシンプル。そして、羊羹がとても美味しい。よい勉強をさせてもらいました。」と作り手としての感想をお話されました。
松屋さんと千鳥屋宗家の社長さんの出会い
銘菓・田辺大根は、幻の伝統野菜・田辺大根の復活を知った地元の和菓子店・松屋さんが、生まれ育った地域にちなむオリジナルの和菓子をつくりたいと、2003年に開発されたローカルスイーツです。地元の方が知り合いに持参する手土産として最適ですし自宅用としても重宝されました。また、地元の小学生が毎年課外授業でお店を訪れて産品の開発秘話を聞くなど、いろいろな形で地域に根差してきました。
しかし、店主の引退で松屋さんが2023年5月でお店を閉めることになり、この銘菓もついに販売を終えることになりました。田辺大根ふやしたろう会は、せっかくのお菓子を何とか復活できないかと考えました。軽羹の製造技術をもち、しかも田辺のまちとご縁がある菓子匠で、松井さんに引き継ごうと思っていただける先。
メンバーの一人が思いつきました。南田辺にお店があって、和菓子を扱う老舗に千鳥屋宗家がある。みたらし小餅をはじめ、大阪に根差した和菓子屋さんです。でも大きな会社なので果たして地域限定の和菓子をつくってもらえるだろうか。思い切って社長さんに相談しました。そうすると返ってきた答えは、
「このようなお話をいただき、感謝します。田辺大根のお菓子、お聞きしたことがあります。製法にもよりますが、軽羹は弊社でも季節商品でありますし、基本的につくることは可能かと思います。和菓子屋の廃業は残念なこと。他人事ではありません。コロナ禍は和菓子屋にとって大打撃でした。何とか生きのこらなくては、という思いです。どこまで再現できるかも含めて一度チャレンジしてみましょうか?」
松屋さんのご意向を尊重してお任せしますとおっしゃっていただき、さっそく松井さんにお伝えすると、純粋に田辺大根の銘菓が世に残っていければとのお考えで、そのような大きな会社が!とお会いいただくことになりました。
試作品の製造から販売までのご苦労
昨年5月に千鳥屋さんの社長さん、菓子職人さんが松井さんのお店を訪問、詳しく製法の伝授を受けました。お店を訪れた千鳥屋宗家のみなさんは、松屋さんが提供されていたお菓子のアイテム数の多さ、それを自身で製造されていたことに一様に驚かれていました。
さて、千鳥屋宗家さんで検討した結果、商品自体はつくることはできても、事業化をどうするのかが課題になりました。松屋さんでは個包装で提供されていて、その包装紙やパッケージはもうありません。千鳥屋宗家では通常はパッケージを制作する場合、千万単位のロットになるそうです。
やがて、田辺大根の栽培時期を迎えました。「地域のお菓子を残す和菓子屋の使命と、弊社で製品化するには赤字になる可能性も高く、会社を存続させる使命の板挟みがあり、黒字にするために色々考えなければ。とはいえ、止まっていても何も生まれないので、製法を一旦保存しておくという意味でも試作をして少し前に進めます。(原田社長)」
ふやしたろう会の吉村さんから東住吉区で営農されている田中さんをご紹介いただき、5キロ分を買い付けていただきました。1月10日にふやしたろう会のメンバーに届けられました。さっそく松屋さんに届けて試食していただきました。すると「見事です。美味しい。」。他の地元メンバーにも少しずつ配り意見を聞いて、松屋さんのご意見と合わせて原田さんに伝えました。
まず一般的な大根を使い製造工程を確かめてから、田辺大根を使って本番の製造を行ったそうです。普通の大根で製造したものと、田辺大根で製造したものを食べ比べてみると、前者の方が生姜の味を感じたそうです。しかし田辺大根の方は辛味や風味がしっかりとあり、生姜の香りが薄れていた。一般の大根は大衆的で癖がないけど、田辺大根は特徴がしっかりあるとの評価でした。その微妙な味加減が難しく、生の食材は個体によって味も変わるため、安定した味にするには少なくとも半年はかかるそうです。
また例のパッケージ問題については、千鳥屋宗家さんの田辺大根は5切れが一袋に入った、細長いパッケージのスタイルでした。通常提供されている軽羹のパッケージを応用したとのこと。「郷土銘菓・田辺大根」として仮のパッケージデザインも用意されていました。しかし大根が青首!そこで、地元出身のイラストレーターの山本ひかるさんに描いていただきました。
最後に
さて、銘菓・田辺大根は来年はどうなるのか、まだ決まっていません。でも、今年これだけ反響があったことから、ぜひまた来年みなさんと一緒に口にできたらと思います。
●銘菓・田辺大根
田辺大根のしぼり汁が入った軽羹(カルカン)で田辺大根の葉が入った羊羹(ようかん)をサンドする新食感の和菓子です。羊羹は生姜を入れて寒天で固めたほんのりと甘い食味で、軽羹(カルカン)は山の芋を練り込んで蒸しあげたしっとりふんわりした食感です。