なにわの伝統野菜・田辺大根の歴史、特徴、育て方、料理レシピ

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田辺大根は江戸時代にできた野菜で、戦前は大阪の家庭で普通に食べられていました。それがなぜ絶滅し、そして復活したのか、お庭やバルコニー、菜園で育てる方法、さらに独特の旨味を活かした田辺大根レシピをご紹介します。

筆者は田辺大根ふやしたろう会に参加して1999年から普及活動を行ってきました。大阪市立長池小学校のゲストティーチャーとしても活動を続けています。そこで見聞きした内容も記録として盛り込んでいます。

もくじ

田辺大根の歴史

東成郡誌 (1922年)と田辺町誌(1924年)に「田辺町における蘿莉 (※)は、遠く三百年前より栽培され、田辺ダイコンの菜は遠近に轟けり・・・」 と書かれています。(※ダイコンの別の呼び名で、漢名で「らふく」、日本名では「すずしろ」と読みます。)

また、天保9(1836)年に書かれた江戸時代の摂津国全体の地図「新改正攝津国名所旧跡細見大絵図」や、文久3(1863)年に「名物名産略記(河内屋太助・伊丹屋善兵衛)」に当時の大阪で栽培されていた野菜が列挙されており、その一つに田辺大根の名がみられます。

田辺大根は現在の東住吉区田辺地域一帯で栽培されていました。昔の田辺地域は、住吉、天王寺、平野、桑津、鷹合といった地域と隣接する広い範囲でした。北田辺、南田辺、西田辺という、町名や駅に名残がみられます。

明治19年地形図(黄色の部分が旧田辺村の集落)

田辺大根のルーツについては、白上がり京大根とねずみ大根が交雑し田辺地域に土着したのではないかと言われています(熊澤三郎氏)。熊澤三郎氏(1904-1979)は平戸藩出身で蔬菜(野菜)品種の研究者として日本の野菜栽培に貢献された方で大阪府農事試験場でも勤務されました。

ねずみ大根とは、蕎麦の発祥の地といわれる伊吹山で栽培されていた伊吹大根で蕎麦の薬味として珍重されていました。その大根おろしは、非常に辛みがあり後から甘味がきます。一方、白上がり京大根は京都の中堂寺あたりで栽培されていたとされる茎大根の一種で白首です。漬物や煮物に向いており、京都ではお雑煮の具として使われ、茎と葉は一緒に漬け込みます。

門外不出の伊吹大根の種子を誰かが持ち出し、京都の白上がり大根と交雑させ、それぞれのよいところを受け継いだ品種を大消費地である大阪に持ち込んだのではないと、前川種苗元取締役の小早川春雄さん(故人)が想像されていました。田辺地域は船場をはじめ大阪の中心地に近く、水はけがよい地質で肥も手に入りやすく、大根栽培にうってつけであったものと考えられます。

田辺大根は少しずつ品種が改良されて戦前まで盛んに栽培されていました。中でも、田辺のお不動さんで親しまれている法楽寺の西門周辺の畑で栽培されていた品種は「横門大根」とよばれて珍重されていたようです。

田辺大根の衰退と復活の物語

江戸時代に栽培が始まり、大正時代には約45haで栽培されていたと記録されています。昭和初期、大大阪時代を迎えて田辺地域は市街化が急速に進みます。それでも大阪市の南部一帯の30ha以上で栽培されていました。しかし、市街化による畑地の減少、ウィルス病の影響などにより、一部の農家でわずかに栽培が継続されるだけとなり、市場では田辺大根はみられなくなりました。

昭和22年地形図

ところが、昭和59(1984)年のある日のこと、大阪市の農産物品評会に出展されている丸い形の大根を森下正博さんが偶然に見かけ、田辺大根であることを確認し同年に大阪市住吉区長居東の岡田さんから種子を譲りうけ、大阪府立農林技術センター(現大阪府立食とみどりの総合技術センター)で特性調査や品種を保全するための栽培と採種が始まりました。

森下さんは当時の農林技術センターでそ菜科研究員として勤務され野菜園芸グループリーダ ーとして伝統野菜の復活に尽力された農学博士です。伝統野菜を見つけては交配が進んだ種子から純粋種を採取する作業を地道に続けて来られました。田辺大根が発見された当時は伝統野菜に注目が集まるはるか昔ですから、理解者の少ない中でご苦労をされたお話を伺ったことがあります。

一方、北田辺の歴史を考える会という市民グループが様々な地域活動を行っていました。そのグループのもとに、田辺大根の種子があるという情報がもたらされたのは平成11(1999)年のこと。地域の歴史や風土を学んで活かしていく活動に地場野菜はうってつけでした。

伝統野菜がブームに終わることなく、家庭の食卓や地元のお店で楽しめたり、田辺大根を通じて会話がはずむような、地域のみんなに愛され冬の風物詩となる野菜をめざして、グループはさっそく「田辺大根ふやしたろう会」を結成して種の配布を始めました。最初は地域の学校の栽培活動に活かしてもらおうと働きかけを行います。 大阪市立長池小学校にも種が譲られて栽培が始まり2022年で23年目を迎えました。こちらの学校は校内に大きな畑をもち、1~6年生で縦割班を構成し、6年生がリーダーとなって栽培を下級生に教える方法をとっています。一人一本の大根を収穫しますので、毎年12月初旬に大きな大根を抱えて児童が下校する様子が風物詩となっています。

大阪市立長池小学校のふれあい農園

田辺大根は、漬物店、和菓子店、お菓子製造会社、お好み焼き店など地元のお店でも活用が行われました。田辺の大ちゃんはイラストレーター の辻本隆文さんの作品です。

辻本さんデザインによる田辺の大ちゃん

地下鉄谷町線田辺駅前で和菓子店を営む松屋さんは地元にちなむ新しい商品を模索していた時に報道で田辺大根の復活のことを知りました。そしてさっそく大根を入手して試作に取りかかります。開発には3年の月日を要し、軽羹という菓子の種類に田辺大根のエキスと葉を用いた「銘菓・田辺大根」が誕生しました。

松屋さんの銘菓田辺大根

田辺大根の特徴

平均的な大きさは、高さ25cm程、直径10cm程で、大きさが様々(不揃い)であることも特徴です。

葉と大根の間の茎に当たる部位が白色の大根は「白首大根」とよばれ、田辺大根は白首です。うっすら緑色の場合は「青首大根」とよばれます。現在はこの青首大根のシェアが高く、そのルーツは「宮重大根」といわれています。

田辺大根は一般的な青首大根に比べて肉質が緻密(ちみつ)で 煮くずれしにくく、おろしにすると辛みがしっかり あって、焚くと甘みが出るのが特徴です。薬味、漬物、煮物など何に使ってもおいしいです。

文献によると「東成郡田辺町産で、甘漬け用として大阪地方に珍重されている。茎葉四六柔く直立する。性質軟弱であるから比較的作り難い品種である 。根は白色円筒形で末端少し太く膨大、丸みを帯び長さ1尺、太さ3寸内外である。質緻密・柔軟・甘みに富む。主に煮食用で漬物に用いられるが、甘漬けでないと適さない。(小田喜八氏)」

田辺大根は葉がよく育ち、多いもので茎の数が40~50に及ぶものもあります。生育すると真っすぐに上に立つことも特徴です。大根の葉の栄養価は高く、田辺大根の葉は毛がなく柔らかいことから、捨てる部分がないお野菜です。

大根を一本、収穫せずに残してみましょう。 3月になると白い菜の花を咲かせます。 6月中下旬の梅雨前に茎ごと刈り取り、 涼しい日陰にはしておきましょう。 そして植える前にさやから種をとりだします。

田辺大根の育て方

種を植えるのは9月10日頃がベストでその前後一週間のうちにまきましょう。収穫時期は12月10日頃です。田辺大根の種は小さく、これが大きな大根になります。色や形のよい種を選んで植えましょう。

①土を用意します

◆幅の広いプランター、理想の深さは30cmぐらい

底に軽石をしいて土、赤玉土、腐養土を同じ割合で混ぜます。高価な土は不要です。家にある大きめの植木ばちでも育ちます。畝のように盛り上げて頂部を平たくします。

◆市販の野菜栽培用の土

袋ごと使います(20~25kg)。上を切ってできれば赤玉土を混ぜこみ、土の表面に日が当たるように土を盛り上げます。袋の底の角を切って水はけをよくします。

※うねで育てたい方は、土にしっかり腐養土をすきこみましょう。 うねの幅に応じて、株の間を20cmほどあけて種を植えましょう。

②種まき

人さし指の第一関節ほどの深さに種を置いてそっと土をかけます。

◆袋の場合

中央に4~5粒を、間をあけてまきます。そこから間引きを行い最後は1本にします。同じ穴に4~5粒まいてしまうと間引きができませんのでご注意を。

◆プランター

20センチほど間隔を開けて、4~5粒ずつまきます。

③水やり

水はたっぷりと土の中まで浸み込むように。発芽から本葉が育つまではとくにたっぷりと。土の表面が乾いたら水やりをします。

④肥料

種うえから数日で芽が出ます。出なかったすぐに追い種をします。芽が出たらその周囲に鶏糞などの肥料を土の表面においてやります。

⑤間引き

双葉の間から本葉 が出てきたら元気な2~3株を残して間引きをします。根本が抜けそうになっていたら根元に土を寄せて盛って軽く押さえてあげましょう。 そして追肥をします。さらに株が育ってきたら、最後は1株に。

児童の手でしっかりと土寄せが行われています

⑥虫とり

大根シンクイムシはハイマダラノメイガの幼虫で、株の中心の新芽が出てくるところに入り込んで枯らしてしまう大害虫です。注意して見つけて爪楊枝で完全にとり出します。大根シンクイムシはハイマダラノメイガの幼虫で、株の中心の新芽が出てくるところに入り込んで枯らしてしまう大害虫です。注意して見つけて爪楊枝で完全にとり出します。

シマシマの虫がシンクイムシ

アブラムシは葉の裏につきます。セロテープや筆で小まめにとりのぞきましょう。緑のアオムシはモンシロチョウ、黒いアオムシはカ ブラハバチの幼虫です。葉を食害しますので早めにとりのぞきましょう。

田辺大根のレシピ

田辺大根の、肉質が緻密で歯切れの良い食感を持ち、おろしは辛く、煮ると甘苦くなる特徴を生かし、筆者の家庭で試した料理を紹介します。細かな分量は一般的なお料理を参考にしてください。

なお、一般的に大根の葉は栄養価が高く、単位当たりで比較するとカルシウムや鉄分は水菜を上回り、ほうれんそうよりビタミンAが多く、ビタミンCは水菜と同等です。カロチンなども多く含まれこれらは根の部分にはない成分です。田辺大根の葉には毛がなく柔らかいことから、この栄養の固まりである「葉」を残さず食べてください。

◆おろし蕎麦やみぞれ鍋

ねずみ大根のルーツをもつ田辺大根の辛みをダイレクトに味わえます。普通の大根では頼りなくて、という方には絶対オススメです。種植えを9月末頃にして、12月末の収穫にすれば、年越しそばを楽しめます。

みぞれ鍋は田辺大根のおろしをたっぷり作って、水炊きの中に入れます。煮るほどに大根の甘みが出て、最期は雑炊にして楽しめます。

みずれ鍋

◆ふろふきや関東炊き(おでん)

田辺大根の食感や味わいをシンプルに楽しめる食べ方の一つです。一般的な大根と同様の作り方となりますが、肉質が緻密なので中まで柔らかくなっているか確認しましょう。お出汁には真昆布を使うと、伝統的ななにわ料理の味わいとなります。

ふろふき
おでん

◆お正月のお雑煮

かつて大阪の船場では船場汁やお雑煮に田辺大根も使用していたとのこと。一部の種うえを9月中~下旬に遅らせて、小さめの大根をお正月まで残して使います。金時人参、水菜といった伝統野菜も使ってみましょう。我が家では真昆布で出汁をとり、上質な鱧を使用している大寅かまぼこを使っています。

田辺大根のお雑煮(白みそ)

◆サラダや大根葉をつかったピザ

薄切りや千切りにしてサラダの具材として使います。レモンを絞って、田辺大根の甘くてほろ苦い味わいを楽しめます。また、厚めに切った大根を鉄板でこんがり焼くのも田辺大根ならでは。

田辺大根とオイルサーディンのサラダ
田辺大根葉の和風ピザ

◆葉のふりかけ

ダイコンの葉を細かくきざんで、サラダ油でいため、油あげ(1枚)のみじん切りを加えて、トウバンジャン、酒、砂糖、醤油を加えて水分をとばしながらいためます。 甘くてシャキシャキの食感がたまりません!

◆田辺大根の葉でお好み焼き

前述のように、田辺大根の葉は無駄なく活用する方法として、お好み焼きがおすすめです。キャベツの代りにすべて大根の葉や茎も細かく刻んでたっぷり入れましょう。大根の部分も小さな賽の目に切っていれると食感を楽しめます。豚や牡蠣などと合わせてふんわり蒸し焼きにすると、田辺大根の風味を楽しむことができます。同じ方法で、ぎょうざもオススメ。

田辺大根葉のお好み焼き
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この記事を書いた人

地域に密着するスタイルでまちづくりのコンサルティングに従事。その経験を活かして大阪ミナミの戎橋筋商店街の事務局長としてエリアのプロモーションやリノベーションに取り組んでいます。一住民として地域活動では阿倍野区~東住吉区のbuylocal活動、町会活動(防災担当部長)、小学校での伝統野菜指導やまち歩きなどを行っています。2013年から2022年まで大阪公立大学観光産業戦略研究所客員研究員。

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